推理小説という入れ物に固執した、何か別の小説

 タイトルを2つの部分に分けると、"探偵"よりも"難民"の方に若干重きが置かれている。あえてスイリ小説という枠を意識しなければならない必然性はないと感じた。実際、肝心の解決の部分も論理というよりは地道な捜査に主眼が置かれていると思う。
 だから、どちらかといえば、社会派的なノリが強い印象を受ける。

 真面目に大学に通ったものの就職できずに卒業し就職浪人をしている窓居証子は、バイトをしながら就職しようとするけれど失敗し、親に泣きつくけれどもお見合いを勧められるので、紆余曲折の末、叔父でベストセラー作家の窓居京樹のアシスタントという名目で居候することになる。そして叔父の知人で、警視庁警視でありながら職を投げ出し、京都でネットカフェ難民として生きる根深陽義と出会う。
 作者の作品にしては珍しいと思うのだが、突出したキャラクターが登場しない。もちろんそれぞれ個性は強いのだが、その強さが同程度である気がする。だから初めは、誰を中心に物語が回るのかがよく分からない。もしかすると中心にいるのは人物ではないのかもしれない。

 就職"難民"でありながら、ほとんど何もしないで収入を得ることができる窓居証子、ネットカフェ"難民"でありすべてを投げ打ったつもりでいるけれど何も手放していない根深陽義、彼らは難民でありながら、社会インフラの整った、かなり良い生活をしている。
 難民という非常に強い単語が報道などで良く使われるけれど、それって実態を的確に表している単語なの?という疑問の声が聞こえてこなくもない。

 ところで、紙質が低い様な印象を受けるのだけれど、これって何か意図があるのだろうか?

   bk1

   
   amazon

   

西尾維新作品の書評