期待に応えられない恐怖と絶対の孤独

 各国が少子化問題を抱えるようになった世界では、その代わりであるかの様に、ジーニアスと名付けられた、これまでとは脳構造からして違う天才たちが生まれる様になった。彼らは生まれた瞬間から自らの特化領域を持ち、その分野において圧倒的な成果を生み出し世界をリードしていく。
 そんな世界で、竹原高行はひざの故障でハイジャンプを辞めざるを得なくなる。特待生としての価値もなくなったため、学園を退学しようとしていたところ、彼の前に一人のジーニアスが現れる。海竜王子八葉と名乗るその少女は、そんな高行を自分が主宰する第二科学部へと勧誘する。
 勧誘の理由は釈然としないものの、好奇心と怖いもの見たさもあって、退学までの残りの一ヶ月を第二科学部で過ごす事にする。しかし、高行がハイジャンプときっちり決別できていなかったことが、彼らの活動に致命的な障害をもたらすことになるのだった。

 才能や資質が生まれた瞬間からある程度は判別できてしまうようになった世界。少子化世界ゆえ、子どもたちは比較的早く社会の一員となることが求められ、それを実現するために、選別された才能の予言を受け入れ、その道に進むようになる。これは普通の人間でもそうなのだが、八葉はその筆頭格だろう。まさに世界の変革者として期待され、あるいは疎まれている。そしてそれに応えられないことは恐怖でしかない。
 対して高行は、自らの意思によってハイジャンプを選び、そしてそれだけに打ち込み、トップクラスの成績を残してきた。それゆえ、その拠り所をなくした瞬間に進むべき道がなくなる恐怖を感じ、それを他者から突きつけられることを怖れて、自ら身を引こうとする。
 この両者の感じる恐怖は、全く方向性が違うようでありながら、性質的には良く似ている。その目は他者を意識していながら、自らは孤独を感じているのだ。これは、そんな二人が自分たちの本質に気づき理解していく物語であるとも思う。

 中盤過ぎまでは、イベント発生型ストーリー展開というか、まずイベントが発生するカットがあって、そこから会話が発生するという様な、ある種のゲームの様な進行の仕方になっていることが特徴である気がする。しかし、終盤になってからは様々なキャラクターの筋が終結し、きっちり物語を終わらせるために転がり始めた印象がある。おかげで、次の展開への広がりが生まれたと思う。
 続巻があるかどうかは分からないが、個人的には読んでみたい。

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優木カズヒロ作品の書評