理想を投影される現実の存在の憐れ

 香奈菱高校に通う御前江真央には、他人の区別がぼんやりとしかできない。同じクラスで良く話しかけてくれる小島さんですら、全く知らない人の様にも思えてしまう。そんな彼女が唯一はっきり見ることが出来るのが、旅人さんだ。
 旅人さんとは家に帰る途中の道で偶然出会った。おそらく同じ学校の生徒なのだと思うが、そんなことは詳しく知りたくはない。真央の前にいて話をしてくれることが全てで良い。彼女と話している時だけが心休まるときなのだ。

 自分の生きる意味や他人の存在に悩む多感な時期を生きる少女と、彼女が理想像として崇めながらも、実際は肉の存在としての悩みを持つ少女の交流を描く。そして、どこかへ行ってしまいそうな不安定さがある時代を今に留めておける存在もまた人間だけなのだということを伝えてくれるのだ。

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日日日作品の書評