自分を追い込む少女と、彼女に手を伸ばす少年

 高校生の藤間大和は悪夢を見た。自分が黒犬に食い千切られ殺されるリアルな夢を。友人の雨森穂波にそんな話を話しながら行った教室で、人形の様に美しい転校生・東雲静馬に出会う。だが彼女は、他人とのコミュニケーションを真っ向から拒絶していた。
 彼女と再会したのは夜。日課のトレーニングを行っていた大和は、本当に黒犬に殺されかけてしまう。絶体絶命の彼を助けたのが東雲静馬だった。彼女は魔術を使い、悪魔と一人戦っているらしい。悪魔という存在は、大和の古い記憶を刺激する。彼の剣の師匠である神原天童が戦った存在と、彼が残した一振りの日本刀、式刀・破錠、そして塞ぎ込んだ自分の姿を。
 心中から突き動かされるものがあり、静馬に協力を申し出る大和なのだが、すげなく断られてしまう。一体彼女が抱えるものとは何なのか、そして大和は彼女を救うことが出来るのか?

 第2回GA文庫大賞優秀賞受賞作とのことなのだが、応募作品としては異例だと思われることに、作中に登場する伏線が多く回収されないままに残される。大概、応募作品は一巻完結で構成するものだと思い込んでいたので、意外だった。もともと続巻を予定して書かれているのだろうか?もしそうではないならば、印象ベースで半数以上の伏線が残されたままというのは、いかにも不親切という気がする。
 主人公を取り巻くクラスメイトたちも多く登場するのだが、静馬から突き放されたところから始まるので、心理的に近づくまでのプロセスが必要だったり、静馬の事情を描写したりするのに紙幅を割かれるので、クラスメイトにまでは手が回らなかった様に思われる。イラストにも登場しているのに、本文中での扱いが軽いというギャップが物足りなかった。

 全体的に色々と裏設定を盛り込み、設定が複雑になっている様なので、紙幅との関係で消化不良の感が否めない。今回でメインキャラの関係は出来上がったので、2巻以降ではスッキリとストーリーを展開させられると思うので、そこに期待したいと思う。

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海空りく作品の書評