描かれる物語の外側に面白さがある*[集英社]

 21世紀後半、首都圏の地方都市に日本問題象徴介入改変装置が建設された。この装置のおかげで、日本に関する問題が一夜で解決されるようになり、日本は世界の中で復権することが出来たが、代わりに、この街を平和を乱す存在と密室殺人が満たすようになった。そしてこれらの、日本の問題を象徴する事件を勇者・疾風寺舞や探偵・万陀院恋が解決することで、日本の問題が解決される。
 そんな非日常が日常となった街で暮らす人々は酷く退屈している。どんな非常識な事件が起きても、被害者として物語に組み込まれた人々以外が傷つくことはない。ベーシック・インカムが制度化され、補償金までもらえるため、生活のために働く必要がない。だから街にはパチンコ屋がいっぱいだ。

 そんな街にある高校で、一人の少女が事故死する。全くどんな日本問題も象徴しない、ただの事故死だ。クラスメイトの一部は、彼女の死を意味あるものにするため、ただの事故死を邪教教団による生け贄の結果と偽装する。勇者を騙して物語とし、過去を改変して彼女の死の真実を書き換えるのだ。
 ぼくは彼女と最後に交わした言葉を胸に、そんな改変を望むクラスメイトと近づいたり離れたりしながら、彼女の死の真相を解き明かしてくれる探偵の来訪を待つ。

 読後、プロローグとエピローグの関係を考えてみると面白い。あるいは別の死の真相を想像してみると空恐ろしい。描かれる物語の外側に面白さがある性質の本だと思う。

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大樹連司作品の書評