生恥をさらしても成し遂げたいこと

 高校の教科書に載っていた「山月記」が中島敦との初めての出会いでした。故郷の俊英と称えられたのも過去の話。科挙に失敗し、かつてはボンクラと蔑んだ人々にあごで使われる日々に絶望してしまう。理想と現実のギャップにより生じる葛藤の描写や、文学作品でありながらファンタジーのような展開に引き込まれました。
 それから数年たって手にしたのがこの本です。もう一つの表題作である「李陵」は、匈奴との戦いで捕虜となった漢の武官である李陵と、漢を裏切った(と思い込んだ)ことに対する怒りのあまり一族皆殺しを命じる武帝を諌めた司馬遷、それぞれの葛藤を描いた物語です。司馬遷はこの一件で武帝の怒りを買い、宮刑に処されてしまいます。男としてのしるしを失い、あまりの恥辱に自死を考える司馬遷。しかし、史記を編纂するという父以来の悲願成就のため、屈辱をバネに執筆に力を注ぐのです。

 それぞれが短編です。あっという間に読めます。ほんの少しでも興味を惹かれたなら、ご一読されてみてはいかがでしょうか。

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中島敦