外交官が活躍する漫画

 ベトナムを舞台に、日本国特命全権大使倉木和也と公邸料理人大沢公を主人公として、会食外交の様を描いた作品。後半からはそれぞれの弟子っぽい役回りの人たちが登場したり、無任所大使として国内で活躍したりもする。
 新鮮な材料がふんだんにあるとはいえない限定的な状況の中、いかにして相手の心の琴線に触れる料理を作り上げるか、という料理の側面と、日中国交正常化という歴史を背景としてベトナム大使公邸で繰り広げられる外交折衝、という政治的な側面の両方から楽しめる。当時の時事的なネタも色々と盛り込まれている。

 そして、最終巻である25巻。この物語の本当の主人公は、大沢公ではなく倉木和也だったのだなという思いを強くした。かつての挫折から数十年。失意の中にありながらも、外交官として国益のためだけに働いてきた男に、ついにチャンスが訪れる。
 一方、倉木の弟子としての大沢は、その志を受け継ぐべく、新たな道にチャレンジしようとしていた。それぞれの決断が呼び寄せた悲しい意見の相違。果たして二人はお互いに納得して道を進むことができるのか?
 倉木がかつての偉大な政治家の言葉を思い出しながら、豆腐を切るシーンではちょっとジーンと来てしまいました。未だに未来へのまなざしを失わない。彼のような人がボクのまわりにいなくて本当に良かったと思います。もしいたら、彼についていくだけで満足してしまっていたと思うから…。

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西村ミツル作品の書評