子孫を残すのは生命に許された奇跡

 魔法士には、人間として生まれたあとに改造されてなる後天的魔法士と、生れ落ちたときからI-ブレインを備えている先天的魔法士がいるらしい。今回のお話は、同じ先天的魔法士でも、研究者の手により人工的に作られた少年ディーと、魔法士の母親から生まれた少女セラが出会う物語である。

 このシリーズの主役は魔法士である。だからこれまでも、様々なタイプの魔法士が登場してきた。彼らは人間と同じ様に食事をし、笑い、悩み、生きている。しかし一方で、I-ブレインという強力な演算装置を自らの内に持ち、周囲の物理法則を塗り替えてしまう程の処理を行える。普通の人間から見ると、一種のバケモノ、別種の生物だろう。
 ところで、進化とは何だろうか。進化論によれば偶然とほんの少しの遺伝子の変異により発生する奇跡であり、創造論によれば創造主によりデザインされた新たなる生物の誕生ということになるだろう。つまり魔法士とは、人工的に進化を促進された人間、と見ることもできる。

 これまでの物語は、研究対象である魔法士の視点で世界を描いていた。だが、元々、著者は研究者らしいので、今後は研究する側の視点から世界が描かれることもあるだろう。どんな解釈をするのかが、少し楽しみである。

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三枝零一作品の書評