畳の上に飛び散る汗の価値を知る

 競技かるたは正月の新聞やテレビのニュースくらいでしか知らないし、小倉百人一首にしてもせいぜい十首知っているかというところ。"ちはやふる"と言えばどちらかというと落語をイメージしてしまうボクだけれど、この作品は面白い。

 面白いという感情は、自分の常識、こうあるはずだという思い込みの斜め上を現実がいくから感じる。だから、全然知らないことを知った時に面白いとはあまり感じないと思う。それは知識を得るというだけに過ぎない。
 では、この作品で外される常識は何か。それは、かるたが地味で暗いという、何となくのイメージである。だがここで知らされるのは、競技かるたが記憶力を競うだけでなく、聴力や反射神経、集中力や体力などを必要とする、れっきとしたスポーツであるという事実である。
 そして明るさ。主役の一人であるちはや自身の華やかさも一役買っているのは事実であろうが、和服やそれを着る者の美しさであったり、何より、短歌自体にすら色を見せてくれる。初めに登場するのは、ちはやの唐紅。今回登場するのは、なにわえの芦の緑。無味乾燥に思える短歌を鮮やかに彩り、その背景に潜むエピソードまで引き出してくれる。

 この巻で一押しのストーリーは、かなちゃんと机くんの対戦だと思う。もちろん、ちはやや太一たちの勝負も良いのだけれど、高校からかるたをはじめた素人の二人の対戦という事で、それぞれの努力の跡や必死に戦術を練っている様子が分かりやすい分、競技かるた自身に引き込まれる感じがする。やっぱり、負けて、悔しがって、それでも一番を目指して挑戦する姿は格好良いなあ。
 競技かるたは、若い方が有利そうではあるけれど、老若男女対等に競える種目の様です。

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