深淵と向き合う時

 騎士団の手でリェロンが処刑されたことにより、黒のセプターによる神殿の侵略は一気に進む。魔力を略奪され病床に伏す母を見、リェロンのグリマルキンの指導によって騎士団への反抗を企てるアーティミスとセプター候補生の学童たち。的確な戦術とアーティミスの指揮ぶりによって、それは成功する様に思われたが…その時。
 黒のセプターがアーティミスを欲するのは何故なのか?白紙のカルドは何を意味するのか?そしていま、旅立ちの時が訪れる。

 天は自ら助くるものを助くという。無能力でありながら父に振り向いてもらえるために努力を積み重ねるアーティミスは、確かに"自ら助くるもの"だろう。でも本当にそれだけで助けてもらえるのだろうか?
 リェロンがかつて故国滅亡の時にエルライ公たる父と姉ミラに助けられたのは、肉親の情や血脈を存続させるためという理由もあっただろうけれど、その前提として、彼が生き残る力を持っているということだった気がする。今回、アーティミスがサダルメリクのアヅマによって助けられるのも、彼女が世界を導く力を持っているからではなかろうか?
 天は自ら助くるものを助く。しかし天は自ら助くるものというのは、天に都合が良いものと解釈される様な気がしてならない。

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冲方丁作品の書評