失われない悲しみと怒りを癒すもの

 2002年4月刊の復刻版。
 人類の一部が超能力フォースを発現し、旧来の人類サードとの大戦争が勃発。超能力を持つ人類を率いた女王が、イタリア半島と共に新たな衛星となり眠りについてから17年。双方の人類は、かろうじて協力体制を築き、世界政府準備委員会の下で各行政機関が機能していた。
 そんな状況の中、政府機関の大物が超能力により捕われる事件が発生する。この事件を担当することになった捜査官パットは、超能力者を教育する機関から派遣された少女ラファエルと共に事件の犯人を追いかけていく。

 大戦で妻子を失ったパットの負の感情は、政府機関によって心体に施された処理により、浮かんだとしてもすぐに相殺されてしまう。心の奥底にある、妻子を殺したフォースに強烈な怒りが薄れることもないが、それが行動を左右することは、政府機関の一員として絶対に起こりえない仕組みなのだ。
 そんな彼の下に現れたラファエルは、フォースの使い手としてトップクラスでありながら、むしろフォースの過激派を排し、フォースの行動を制限するサードの立場で行動する。彼女の力はパットの怒りを再燃させながらも、それを徐々に癒していく。
 新たな力を手に入れた先に訪れる人類の世界とは?

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冲方丁作品の書評