仮想世界で頑張る理由

 バス事故で行方不明になった妹がMMORPG内にいるという噂を聞いた如月優馬は、そのゲーム"Walpurgis Nights"のプレイヤーとなる。ログイン直後の彼の前に現れたのは、ラスボスであるはずの三人の魔女であり、その一人は彼の妹にそっくりだった。しかし、彼女は彼の呼びかけに答えることなく、代わりに彼に与えられたのは、謝罪の言葉と呪われた魔女狩りの魔剣ノーザンライツ
 再びあの魔女に問いただすため、魔剣を手に、未到の魔女の居城を目指すユウマ。そんなある日、偶然オリエという女性プレイヤーと知り合い、何となく一緒に行動するようになる。

 ゲーム内の物語がメインなのだけれど、ゲームに至るまでの、おっちょこちょい会社員の篠田遙香との出会いや、幼なじみの工藤由希奈との関係、オリエこと綺堂織絵との現実世界での意外な接点など、現実世界における、主人公とヒロインたちのやりとりが意外に多いことに気づく。
 このタイプの物語を成立させるためには、読者が抱くであろういくつかの疑問に回答を提示する必要があると思う。現実サイドで言えば、(1) なぜゲーム内に留まり続けるのか? (2) ゲームばかりやっていて誰かに止められたりしないのか?等の疑問があるだろう。ゲームサイドでも、(3) 主人公を主人公たらしめる能力の付与と、他プレイヤーとのゲームバランスをどうするのか? (4) 主人公と行動を共にするプレイヤーは、どうして同行するのか?等の疑問があると思う。本作品における(1)への回答は妹を見つけるための手がかりがゲーム内にあるからだし、(3)への回答はノーザンライツとその呪いだろう。
 また、今回はゲームに至るまでの経緯説明部分があるため仕方ないのかもしれないが、ユウマとオリエ、クエストをおこすのが得意なリョータ、そして魔女たち以外には、ほとんど他のプレイヤーが登場しない。だからゲーム内での人間関係が今の所とてもシンプルで、「MMO」という部分があまり生かされていない気がする。
 このような論点から考えると、比較的、仮想世界よりも現実世界に軸足を置いた、仮想世界における物語かもしれない。展開的には次巻へ続く。

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花房牧生作品の書評