砂漠での鯨捕りと世界の秘密

 壮大な物語の第一章という印象を受けた。
 理由は未だ明らかにされていないが、地球を旅立った一部の人類は、地球型惑星を発見し移住した。それから千年、その惑星テラの先住民であるテラナーと、移民してきた人類は、色々とトラブルを起こしながらも、基本的には、人類は巨大な塔の中で暮らし、テラナーは大地に暮らすという形ですみ分けて来た。
 このテラの巨大な砂漠地帯には、クジラそっくりの巨大生物・鯨が棲んでいる。人々は、自分の体は塔の中に置きながら、ヒルコという人形を遠隔操作し、ゲーム感覚で鯨を狩るのが流行している。一方、テラナーたちは、捕鯨鎧と呼ばれるアーマード・スーツみたいなものをまとって、生きるために鯨を狩るイサナトリだ。
 そんな世界の中で、那取洋という17歳の少年は、とある理由で塔を飛び出し、テラナーの捕鯨船に暮らすことになる。その時、出会い頭に狩った鯨の中から一人の少女が現れる。この出会いが、様々な事件を呼び起こす。

 テラのイメージは琉球満州だ。単語や人名の端々に影響が見受けられる。そして、最も根幹にあるのが、タイトル通り、かつて小舟と銛で鯨に挑んだ漁師たちだろう。
 洋が塔を出奔するのを手引きする幼なじみの崎守弥生や、その先で出会うミルファという鯨捕り、そしていさなとのストーリーというファンタジー的な要素もありつつ、捕鯨鎧やヒルコというSF的な要素もあり、そしてこの世界にはまだまだ秘密が隠されていることを感じさせてくれる。
 壮大な物語の第一章でありながら、単純な導入に陥らず、一冊の中で盛り上がりや見せ場があるので、フラットで飽きさせるようなことはないと思う。後半に進むほど、面白くなっていく。

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大樹連司の書評