戦争経済が成立した世界

 同名ゲームのノベライズであり、単体で読めるSF小説となるように書かれている。このため、世界観や背景の説明も加えられており、ゲームをやったことのない読者(ボクの様な)に親切な設計になっていて、おおよその事情は理解できるのだけれど、やはり色々な出来事を積み上げてきてここに至っているので、これ1冊で背景を完全に理解できるかというと、それは難しいと思う。なので、ボクはこれを単体の小説として読む。
 主人公はソリッド・スネークというコードネームを持つ、現在は軍に所属していないスニーキングのスペシャリストだ。過去、数々の世界平和を揺るがす事件を解決してきた彼は、ビックボスと呼ばれる、これまた英雄のクローンとして生み出され、今まさに、急激な老化と間もなく訪れる死に直面していた。しかし世界は彼を休ませてはくれない。因縁のある敵であり、同じくクローンとして生み出された兄弟であるリキッド・スネークの陰謀を打ち砕くため、戦場に赴く。

 物語中で盛んに語られるのが「戦争経済」という言葉だ。戦場に立つ兵士たちはナノマシンを注入され、その行動は全て管理される。火器は完全に管制され、自由に撃つこともできない。この仕組みがもたらすのは、戦争の完璧なコントロールだ。
 なぜ戦争を完璧にコントロールしようとするのか。モノが消費されなければ経済は発展しない。そして、究極の消費を生み出すのは大規模な破壊だ。しかし、その破壊が自分たちの社会を壊しては元も子もなくなってしまう。自分たちから遠く離れた場所で、自分たちが得をするように破壊が起きることが理想的だ。完璧な戦争のコントロールには、これを実現する力がある。儲かるモノが永遠に儲け続けることが可能な仕組みを作り上げることが出来るのだ。その代償として、永遠に傷つく者たちも存在することを許容するならば、だが。
 ちなみにこの対極にあるのがテロリズムだろう。いつどこで破壊が起きるか分からず、コントロールできない。その戦火は兵器を提供している側にも及ぶことがある。だからこそ、抵抗の手段として選択する者が後を絶たないのだろう。まあこれも、それだけとは限らないのが難しいところだが。

 ソリッドは自ら死期が迫っているのに、なぜ世界のために戦うのだろう。人は自分が死んだ後にも、何かを残したいと思うものなのかもしれない。しかし彼は子供を残すことが出来ないように作られているので、子供に何かを伝えるという形で実現することは難しい。だから彼は、スネークという虚構が生み出す全ての悪影響を完全に消し去ることで、逆に世界に何かを残そうとしたのではないだろうか。そしてその行動は、関わった者たちすべての中に何かを残して、消えていく。

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伊藤計劃作品の書評