自分の目で見て自分の頭で考える

 世界の全てを表現した一枚の絵、智慧の樹。この絵に描かれたものは、世界の変化を写す様に絶えず変わり続ける。そして、描かれたものを描きかえれば、世界も変化してしまう。
 そんな一枚の絵から生まれたミネルヴァ、天乃理に梟として見出された森本慧は、高校の時に出会った師匠と仰ぐ人物の言葉を盲信し、流行を追って賢く生き抜き、二十歳からの余生を目指す大学生だ。表向きは大学図書館の書庫整理のバイトと言われながら、実際はミネルヴァの梟として、理の作業を手伝い、彼女の目となって周囲の人々を観察する。彼女が、彼女の父である錬金術師ルルスの言葉を忠実に再現するために。
 二十歳の余生を目指す超現実主義的な生き方から、ある日突然、非常識な世界へ放り出された慧は、その影響か、不思議な夢を見る。それは、高校卒業のときに別れた彼女である佐倉霞と彼がなぞる、ファウストの物語だった。

 ファウスト的要素を取り込み、心理学の要素を取り込み、パロディを取り込み、様々なキャラクター要素を取り込んだ作品なのだけれど、基本的には対話による思索がメインになっていると思う。
 慧と霞、ファウストメフィストフェレス、ルルスとシュプレンゲルという対比や、慧と師匠、理とルルスという対比など、他にも親子関係などの人間関係の構造が組み合わさり構成されていて、色々と考えさせられる。
 ただ、あまりにも様々なことが盛り込まれていて消化不良というかコンパクトになりすぎかなと思う部分があったり、シリアスか笑いかどちらに重点が置かれるのか分からない時があったりする気がした。

 星3つにしているけれど、読者によっては星5つだと思うし、それに化ける可能性を秘めた作品だと思う。ただし、星4つではないとも思う。

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浅生楽作品の書評