輪廻の中に組み込まれた対立

 君塚育人はなじみのゲームショップの店長から、オンラインゲームの試供版をもらう。試しにログインしてみると、そこに広がっていたのは約40年前の地元の風景。五反田駅近くのビルで、短刀と共に、カガチダチという謎の単語を聞かされたイクトは、プレイヤーの中に赤い蛇の刻印を持つ者がいることに気づく。彼らは全て犯罪者で、カガチダチとは彼らを倒す者らしいのだ。
 同じ短刀を持つカガチダチの自称勇者リホこと安堂李穂と出会い、協力したり対立したりしながらも、ゲームの世界を楽しんでいた。しかしある日、育人は現実の世界でも蛇の刻印を持つ者がいることに気づく。カガチダチとは一体何なのか。

 主人公と家族の話し方がとても丁寧なのが浮いている印象を受ける。キャラ付けとして悪いことではないと思うのだが、口調が丁寧ではあっても行動が理知的という訳ではないし、彼にまとわりついてくる深寺奈子という少女の異質さと相まって、いつまでも慣れなかった。
 個人的には、前世の記憶を根拠として現実世界で超法規的措置をとるという行動原理にあまり共感できなかった。第三者から見れば、正直どっちもどっちとしか言いようがない。

 システムに関する謎を放置して、いびつな人間関係の修復に注力した感じだが、入り口としてはハードルが高いやり方だった気がする。もう少し純粋に物語に入り込める部分を作って、それから展開させた方が良かったのではないかと思った。

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木本雅彦作品の書評