描写が設定に深みを持たせる

24年前に突然発生しTDHと名付けられたレトロウィルスは、致死率こそエボラ出血熱等に比べれば低いものの、後天的に遺伝子を変異させるという特徴を持っていた。つまり、人間の形質を他種に変化させるのだ。
 変化のサイクルが非常に短く、多様性に富んだTDHの研究は困難を極めたが、日本人研究者5人の協力により、ワクチンを作り出すことに成功する。これにより、人類は死と変化の恐怖からまぬがれることはできた。
 しかし、TDHは変化のサイクルが短いこと、進化ウィルスとしての可能性を秘めていることから、TDHの研究は現在も続けられている。そして世界各地を飛び回り、サンプルを採取する人々は、かつてのプラントハンターに擬して、レイスハンターと呼ばれる。

 17歳の守屋篤志はそんなレイスハンターを目指す一人だ。飛び級入学した大学で、必要な知識・技能の習得に励んでいる。
 TDHが作用したのは人類だけではない。このため、他の動物や虫たちもTDHによる形質変化を受け、凶暴化や巨大化したため、レイスハンターが赴く場所は危険地帯となった。このため、レイスハンターは、生物学的知識だけではなく冒険者としての能力も必要とされ、そのライセンス取得には厳しい条件が課せられているのだった。

 そんな課程の特別実習において、テロ事件が発生する。一人犯人の拘束をまぬがれることに成功した守屋篤志は、人質となった実習生の救出を試みる。人質の中には、ワクチン作成者の一人の娘である神崎栞も含まれていた。

 一種のサバイバル・アクションなのだけれど、設定と脇を固めるキャラクターが個人的に気に入った。特に、レイスハンターの基本技能として必要とされる能力を、実習の過程で細かく描写しているところが舞台設定に深みを持たせていると思う。
 篤志を囲む女性キャラたちとのやりとりも、お約束といえばそうなのだが、何かツボにはまってしまう。

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白川敏行作品の書評