科学者の戦争責任とラブコメ

 夜間戦闘飛行の巧者で敵からも狐と呼ばれるクラウゼ・シュナウファー中尉は、ある日、惰性と義務で続ける戦闘飛行から帰還した途端、本国へ召還される。帰国した先で待っていたのは、親衛隊少佐で元主家の令嬢であり、子どもの頃からの姉貴分であった、イングリッド・フォン・ヴィッツレーベン。彼女がクラウゼに示した新たな任務は、戦争の帰趨を握るという天才少女アンナリーサ・フォン・ラムシュタインのサポートだった。

 架空の国家群が対立する世界にあって、小国の資源所有権を巡り内戦という名の大国同士による代理戦争が行われており、クラウゼはその戦場を飛び交う電子兵装を備えたジェット機パイロットだ。
 一方、アンナリーサは天才科学者であり、軍に協力して兵器の開発を行うことになる。クラウゼはそんな彼女のサポート役だ。天才少女ゆえのプライドの高さや、それに起因するベテラン技術者との対立。そんな問題をクラウゼが影から捌きながら、アンナリーサは敵国の科学者と競うように大量破壊兵器を開発していく。

 そんな彼女のライバルとなるのは、敵国の科学者ルイ・シャルル・ド・アジャンクール。彼は30年前の大戦で軍に協力した故に心を病み、狂人科学者として隠棲していたが、彼のところに派遣された新任少尉エマ・フォンクの復讐に手を貸すために再び兵器開発に手を染める。

 まるでおもちゃの様に兵器を開発し、その兵器が多くの他国の人を殺す。そんな現状に罪悪感を感じることもないアンナリーサだが、とある事件を通じて彼女の心情は一変する。そして、同時にアジャンクールの心情を一変させた出来事が、世界の転換点となった。

 科学者の戦争責任や倫理という視点を入れながら、一人のパイロットと一人の少女を取り巻く人間と世界を描いている。テーマとしては重くて文章も硬い感じがするけれど、登場するキャラクターたちのやりとりはラブコメ的要素を含んでいる。
 最近評判になっている様な舞台設定の中で、作者らしさを追求した感じがする。シリアスとコメディの区切りがもう少し明確になった方が、展開に落差がついて面白くなるような気はした。

 ところで作者は、リーマン幾何学一般相対性理論に興味があるのだろうか?

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南井大介作品の書評