母への憧憬が作り出す未来

 世界政府がレナード・ウィンズベルを処刑した理由と反政府団体DESTの指導者UMA暗殺の関係が分かり、エナ・ウィンズベルの母で行方不明となっているイソラ・ウィンズベル/川澄伊空と、新たに名乗りを上げたUMA/アンノウンとの関係が新たな謎として残った。その謎を明らかにするため、エナやハルク、ネーヴォは、イソラの研究内容を知るため、世界政府が管轄する図書館への潜入を試みる。
 一方、国際刑事警察機構ヴァンダル班のサムソン・ゲティスバーグとカッツェ・シュミットは、文化制定局局長アナベル・カーライトの指揮の下、情報に自由にアクセスできる立場を生かして、アンノウンの正体に迫っていた。
 アンノウンの正体とは、そしてイソラの目指したものとは何だったのか?エナの原初の記憶がそれを解き明かす。

 自分の考えを他者へと完璧に伝えることは難しい。特に言葉、文章でそれを伝えようとすることは困難だ。これは、例えば、メールで解釈の余地のある文章を送ってしまい、ミスコミュニケーションが起きた経験などを思い起こせばよいかも知れない。
 絵画は文章に比べれば、情報がまぎれる余地は大分少ない。何せ、イメージを共有するために開発されたツールだからだ。そこには言葉には乗せきれない情報も載せることが出来る。しかしそれでも、見た者の解釈を許すことは確かだ。

 だが、その余地を極限まで減らせるテーマがある。それは人類普遍の命題、例えば神の奇跡や、母の無償の愛という様なものだ。本巻では宗教画が多く登場する。ボクは宗教に造詣が深いわけではないが、少し考えて見たい。
 旧約の時代、神と人間には直接的な関わりがあった。しかし新約の時代に入り、神はその代理人たる天使や、聖母を介して生まれたイエスを通じてしか関わりを持とうとしなくなった。自然、神は人間から遠くなったが、代わりに人間が神を産む、あるいは神になるというシステムが存在することが示された。しかし、こうして生まれた神は無限の存在にはなり得ない。人という枷を背負った以上、死も切り離せないものとなった。
 母が子に示す無償の愛は、神が人を照らす慈悲に似ている。母から生まれたものは、母なる大地へと還る。そして新たな生命の糧となる。人は無限の命を失った代わりに、母という存在を通じて無限の循環を得た。この循環による進歩が人間に許される神の慈悲なのかも知れない。

 母への憧憬という要素を上手く組み上げて、綺麗に物語は完結したように思う。

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美奈川護作品の書評