盗人にも三分の理、一寸の虫にも五分の魂

 祖父の下で猟師として暮らしてきた14歳の少女・浜路は、祖父の死をきっかけに江戸にいる異母兄・道節のもとに引き取られる。その頃、江戸には伏という人間と犬のあいのこがいて、時々人間を襲っていた。道節は貧しい浪人暮らしをしながら、その賞金稼ぎをしており、浜路も猟師としてその仕事をすることになる。
 伏は見た目はまるで人間なのだが、身は軽く、気ままで時に残虐で、体のどこかに牡丹の様なあざがある。そして寿命は20年くらいと短い。そして人間の生活に紛れ込んで生きている。
 浜路はそんな伏を追いかけているうち、滝沢冥土という青白い読売に出会う。曲亭馬琴の息子であるという冥土は、伏に関する瓦版を売りながら、伏について詳しく調べていた。そして、父・馬琴の書く里見八犬伝の本当の物語、里見義実とその姫・伏、弟の鈍色と彼が拾った犬・八房の物語を浜路に語って聞かせるのだった。

 江戸にわずかに残った伏を浜路に追っかけさせながら、その過程で出会う冥土や信乃に伏にまつわる物語の始まりと終わりを語らせるという構成になっている。このため、作中に冥土の著した贋作・里見八犬伝や、信乃の語る伏の森という章が挟まれる。

 物事にまつわる光と影。あるものが司るルールの中で繁栄を謳歌するものもいれば、そのルールにより虐げられ苦しむものもいる。世の中の良い悪いはこのバランスの具合による。これを象徴するものが伏姫と鈍色であり、里見の里と伏の森であり、村雨丸と伏であろう。
 この秩序と無秩序の中で、浜路というちっちゃな猟師は、基本的には秩序を守るために伏を討つという姿勢は揺らがせないものの、その幼い純粋さにより、伏の生き様にも涙し共感したりする。

 時代の流れ、人々の考えにより、バランスの重石は左右する。浜路や道節と、伏たちの狩る狩られるの行ったり来たりは、結局どこへと辿り着くのか。

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桜庭一樹作品の書評