現代社会の根幹に対する挑戦

 この本を読む前にひとつ頭に入れておかなければならないことは、作者が主人公の桜井海斗を社会心理学専攻の学生にしたことだと思う。大衆扇動の手法を熟知していて、物事にレッテルを張ることの危険性を感じている。そこに、これから書くことに対する理性がある。

 スタンフォード大学大学院に在学中の桜井海斗は、父でジャーナリストの桜井啓司からプラチナのペンダントを渡される。そしてそれから10日もしないうちに、啓司が薬漬けの状態で事故死体となって発見される。
 父親を引き取るためにニューヨークを訪れた海斗だが、啓司を謀殺した犯人らしきグループに監禁され、父親が彼に渡したと思われている情報を引き渡すよう、精神的・肉体的に強烈な拷問を加えられる。しかしその心当たりがなかった海斗は、結局、父親と同じ様に放り出され、1か月の昏睡状態の後に奇跡的に目を覚ますことができた。

 目を覚ました海斗は、父親の無念を晴らすため、犯人グループに復讐したいと考える。そんなとき、父親から受け取ったペンダントから、SDカードを発見するのだった。そこに記録されていたのは、世界最大の財閥ブランフォートがこれまで行ってきた、そしてこれから行う予定の、世界統一政府樹立に向けたロードマップだった。
 アメリカの連邦準備銀行を利用した世界支配の手口、ローンの仕組みを利用した利益収集システム、そしてテロと見せかけた大衆扇動とそれによる利権確保、マネーの電子化による個人支配など、それだけ聞けばあまりにも荒唐無稽で陰謀史観的な、しかしどこまでも現実的な計画に衝撃を受ける海斗。

 その後、ブランフォート卿に仲間に誘われ、彼の計画が非常に現実的で正しい考え方に則るものだと理解しつつも、父親を謀殺されたという一点で相いれない海斗は、殺される寸前で、一族の少女リザに命をすくわれる。そして彼女と共に、ブランフォート財閥打倒の戦いを始めるのだった。

 前作「雷撃☆SSガール」と同じ世界の物語なのだが、おそらくはそれ以前の出来事なのだろう。あちらで登場した人物は、ほとんど登場しない。また、他社作品の「羽月莉音の帝国」とも微妙にリンクしている。
 非常に壮大な物語で、現代社会の根幹に対する疑問というか挑戦をしているような作品。史実に基づいている部分もあるため、どこまでが事実でどこからが虚構なのか分からなくなるくらい。でも、エンターテインメント作品としても面白く、作者の他の作品に比べると対象年齢は少し高めかも知れない。

 読めば一笑に付す人もいるかもしれないし、信じ込んでしまう人もいるかもしれないし、様々なことに疑問を持つようになる人もいるかもしれない。そんな作品だと思う。

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