相手に伝えるということの重要性

 他のコトモノの物語を詠唱する能力を持つムジカを宿した少女、名瀬由沙美は、ロゴたちの暮らす施設くるみの家に引き取られることとなった。「た」を認識できないコトモノを持つ少女、滝田たつねなど、くるみの家に暮らすコトモノたちにも受け入れられた由沙美だったが、ムジカの元となったコトモノを持ち、かつてのくるみの家の中心にいた真木成美の記憶を共有していない彼女は、何か落ち着かない気分になってしまう。
 こうしてホワイト・ラビットの事件が過去のものとなったころ、街には奇妙なダンスを披露する集団、破詞が広まりを見せ始めていた。そしてそのダンスを踊り続けたコトモノは、自らの物語を変質させてしまう。

 コトモノの物語を守るために、ロゴは破詞の正体を探ろうとするのだが、その圧倒的な広がりと、言葉を必要とせずに伝染するという性質ゆえに、己の無力感にさいなまれる日々が続く。そして、そんなことに気を取られているうちに、破詞の影響は身近なところにも及ぶのだった。

 今回の遺言詞は発声言語ではなく、別の手段を媒介して意思伝達が図られる言語、そして他者の遺言詞を通じて自らを複製するというレトロウイルス的な性質を持ったものがテーマとして取り上げられる。
 言葉を必要とせずに相手の気持ちが読める、意思の疎通ができるという能力はたいそう便利に思えるが、そもそもコトモノの能力は超能力的なものというよりも通常の能力が研ぎ澄まされた感じの能力なので、本当に心が読めるわけではない。
 だからその能力を過信しておぼれると、どういう結果になってしまうのか。伝えるということの重要さを考えたい。

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大泉貴の書評