現在と未来に橋を架ける

 タイトルの通り、手に職を持った女性たちが宇宙関連ビジネスで活躍する物語なのですが、ベースになっている世界観がとても興味深く感じられます。
 SFで描かれる世界の多くでは、月や外惑星に基地があったり、他の恒星系の惑星がテラ・フォーミングされていたりします。つまり、人間が既に宇宙を生活空間とした後の世界なわけです。でも、現代の人類の科学力は、せいぜい宇宙に人や物を送って、そこでギリギリ生存させることが精一杯。生活というレベルには達していません。こう考えると、未来史上のどこかに、「生存」を「生活」に変える転換点が存在することになります。そのミッシングリンクを描いているのがこの作品と言えると思います。 このような視点から読むと、一点に集約されていく人類のエネルギーの躍動や、いままさに殻を打ち破ろうとしている技術者の突破力みたいなものを感じられるかも知れません。

 他方で、SFとしての面白さとは別の側面、つまり働く女性にスポットを当てる作品としてみると、男性作家が女性の生きる姿を描くのは難しいな、とも感じました。ツンツンしながら働くキャリアウーマンの物語を書けば、男性のロールモデルを単純に女性に置き換えただけの物語にしかならない。かといって、能力のある女性がかっこいい男性と出会って幸せな結婚をしました的な物語にすると、結婚が女性の幸せなのか、となってしまう。
 技術者というロールに注目してみれば何も気にならないのに、女性という部分に気を取られると、こんなことも考えてしまう。SFとしての着眼点だけではなく、社会における性別の違いみたいなものも考えさせられてしまいました。いやまあ、余分なことなんですけど。

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小川一水作品の書評