アクセル・ワールド (1)(川原礫)

練り込まれた世界観、バーチャルなのに生々しい人間関係

 15年前に登場したニューロリンカーと呼ばれる脳と量子無線接続する携帯端末により、リアル世界での生活をバーチャル・ネットワークでサポートできるようになった世界。しかし、学校という物理的な空間がなくなることなく、そこに同い年の子供が集められることも変わらない。だから、授業がバーチャルで提供されるようになったところで、いじめはなくならない。
 有田春雪は、太ったいじめられっ子の中学生。教室内に安心していられる場所はなく、今日も一人、トイレの個室にこもっては、人気のないゲームで時間が過ぎるのを待っていた。ニューロリンカーでつながった世界では、様々な物理的制約から抜け出すことが出来る。いつも何かを気にして、何かに束縛されて過ごしているハルユキにとっては、現実を忘れられる唯一の空間だった。

 そんなある日、誰にも負けないと思っているゲームの世界で、自分のハイスコアを軽々と更新している生徒がいることに気づいてしまう。それは副生徒会長であり、黒雪姫と称される校内一の美少女だった。
 彼女は、周囲の奇異の目も気にせずハルユキに接触してくると、ブレイン・バーストというアプリケーションを渡してきた。このアプリは現実を壊してくれる、という黒雪姫の誘惑に乗ったハルユキは、これまで知らなかった世界を知る。加速世界と呼ばれるそれは、一定時間だけ思考速度が千倍になる世界であり、選ばれた中学生が戦いを繰り広げる世界だった。

 読み始めてすぐ、作品の世界観がとても作り込まれていることに気づいた。ニューロリンカーの使用上で問題となる様なポイントにもきちんと対応策が練られている。
 この加速世界は、超越的な何かによって与えられたものではなく、人の手によって作り上げられた世界だ。だから、この世界で起きる出来事は、必ず人間の手によって変えることが出来るはず。あきらめず、たゆまず、知恵と勇気で道を切り開いていくハルユキの今後の活躍に期待したい。

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