パララバ(静月遠火)

携帯電話がつなぐふたつの世界、そして別れ

 淡い恋心。昨日と同じ今日、今日と同じ明日。変わらないまま続いていくと思っていた小さな幸せは、少しずつの悪意の重ね合わせで、突然に絶たれてしまう。

 遠野綾は、合気道部の合同練習を企画した縁で、他校の合気道部の部長である村瀬一哉と毎日電話をする仲になる。彼氏彼女というわけではなく、毎日のちょっとした出来事を話して笑いあう、そんな関係。
 夏休みの終わり、一哉は他界してしまった。高校の屋上で足を滑らせて頭を打ったという事故死。ところが、通夜に参列して自分の部屋に戻った綾の携帯に、いつものように一哉から電話がかかってくる。聞こえてくるのはいつも通りの一哉の声。
 でもやっぱりおかしい。一哉は死んだんだ。その現実と向き合うように、電話の向こうの一哉にそのことを伝えるが、帰って来たのは意外な答え。電話の向こうでは、綾が通り魔に襲われて死んでいたのだ。

 電話のやり取りから一哉の事故死に不審を抱き、こちら側で調査を開始する綾は、向こうとこちらの情報をつき合わせつつ、少しずつ事件の核心に近づいていく。パラレルな世界で繰り広げられる、淡い恋の結末とちょっとしたミステリー風味の作品。

 野暮なことをいうならば、携帯電話の向こうの世界は、綾の幻想に過ぎないのかもしれない。唐突に訪れた別れという現実を、これまでの自分の殻を破り成長しながら、事故死の真相を暴く過程で受け入れていく物語、と見ることも出来ると思う。

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