大江くんの周辺で起きる変化

 高校の書道部という、イメージからするとあまりアクティブではない部活にスポットを当てた作品。作者は過去に、「モンキーターン」で競艇を取り上げた河合克敏氏。
 書道部に入部した帰国子女である大江縁と、高校女子柔道界の期待の星である望月結希が出会い、字の上手くない望月が字の上手い大江に突っかかりながら、書道の世界にはまって行く、という作品。スポーツと違ってライバルとかを出しにくいだろうから、盛り上がりに欠けるのかな、と思いきや、様々なイベントが発生する。それに、作中の書は書道家が書いた作品だったりするので、書自体にも興味が持てる構成になっている。

 書道部の魅力にはまり始めた頃。大江くんがアルバイトをする気になり紹介された蕎麦屋に行くと、そこは一緒に合宿をした鵠沼高校書道部の宮田さんの家だった。完全に忘れ去られていた大江くんではあったが、海外からの観光客の対応を見てからは、何か宮田さんも気にかけている様子。しかし、再三のアプローチにも全く気付く様子のない大江くん。

 一方、望月さんは、商店街で二人が歩いている姿を偶然見かけてから、どうもご機嫌斜め。あっさりインターハイで優勝したが、一向に気分は晴れない。加えて、書の甲子園に出品する作品として、大字書を勧められるが、崩した読めない字の良さがまったく理解できず、あまりやる気になれない。そんな時、偶然にも大江くんのお祖母ちゃんと遭遇する。
 ここでお祖母ちゃんが崩した字の魅力を教えてくれるのだが、その説明が良かった。字を単なる記録用のツールとしてだけでなく、それ自体に情報を乗せて書くという方法があるということを初めて知った。まあ、それも行き過ぎると、抽象画の解釈みたいに素人には理解できないものになってしまうのかもしれないが…
 一年生部員の二人が、それぞれのやり方で真剣に書に向かい合っている様からは、とてもアツいものを感じる。

   bk1

   
   amazon

   


河合克敏作品の書評