偶然の出会いがなければ今頃

 「ハチミツとクローバー」で美大生の姿を描いた羽海野チカが今度描くのは、将棋のプロ棋士。交通事故で家族を亡くし、生きるために将棋を選んだ高校生、桐山零。もう何もなくさないように、全てを手放して生きようとしているように見える彼だが、偶然や将棋は彼の元に他人を連れてくる。
 二階堂晴信にしても、川本あかりやひなたにしても、万全に幸せな人々という訳ではない。それぞれに他人から憐れまれたり悲しまれたりするようなことを抱えて生きている。でも、そういうものを全部抱え込みながらも、なんでもない事のように普通に生きている。そんな人たちに囲まれて生きていられる桐山零は、本当は幸せ者だと思う。
 将棋監修は先崎学八段。現在活躍中の中堅から若手の棋士の中で、この物語の監修には最適な人物ではなかろうか。将棋盤面に込められた想いをコラムで語る以上に、桐山零を深めるのに活躍して欲しい。

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羽海野チカ作品の書評