異常な動機を常人が理解しようと思うのが間違い

 某国立大学助教授(発表当時)である森博嗣氏の第一作。彼の作品を通じてのキーパーソンである、真賀田四季が初登場する作品でもあります。

 孤島にある外界と隔絶した研究所の中で、隔離されて生活をしている天才博士、真賀田四季。彼女は14歳の時に両親を殺害した罪で裁判にかけられ、心神喪失で無罪を勝ち取って以後、ずっとそこで生活している。地方の名士の家系である西之園萌絵は彼女に興味を持ち、自分が通う大学の助教授であり、父の教え子でもある犀川創平や研究室のメンバーとともに、この研究所がある島でキャンプを行うことにする。その夜、彼女に会うために研究所を訪ねると、そこで見たのは、ウェディング・ドレスをまといながらも、両手両足を切断され、ロボットで移動する彼女の死体だった…。いわゆる密室ものに分類される作品です。

 ボクはあまりミステリーを読む方ではないので間違っているかもしれませんが、多くのミステリーでは、読者は犯人に対して共感なり、反感なりを抱きます。探偵役はそこに至るために、異常な状況を理解できる状況に置き換えます。この際に、動機の解明ということが行われるわけです。
 しかし、この作品では、このような動機の解明にはあまり重点が置かれません。そもそも、探偵役が状況を異常と思っているかどうかも疑問です。事実として死体があって、それを実現するにはどうすればよいかを、日常の論理で理解してしまう訳です。まあ、必ずしも読者がそれを理解できるとは限りませんが、それは天才の所業なので凡人に理解できないのも仕方ない。
 では、登場人物たちが魅力的ではないかというと、決してそんなことはない。それぞれの思考方法や背景などが随所に埋め込まれ、それが彼らを彼らたるものにしています。個人的には事件と直接関係ないこれらの会話などの方が面白いとも思う。すでに世間的に十分評価されている作品なので、こういったことは十分語りつくされていると思いますが…。


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森博嗣作品の書評