私は道を示さない、可能性を残すだけだ

 アニル・ジュレがマザーシステムへと向かう姿は、さながら、ゴルゴダの丘に向かって歩くイエスの様だ。それによってもたらされるものが、完全な救いではなく、自ら悔い改め行動するための猶予を与えるだけ、というのも似ている気がする。
 アニルは、おそらく、天樹錬やフィアに何か大きな影響を残した。それは、今後の彼らの行動原理となるものだろう。一方で、サクラがその影響をほとんど受けていないのは不思議だ。彼女から見れば、自ら望んでマザーコアとなる魔法士の存在は、彼女の行動原理を揺るがしてもおかしくはないと思うのに。

 サクラは、アニルがマザーコアであるという事実が分かってからも、アニルの行動を妨害し続ける。彼女が魔法士を助けようとするのは、魔法士が自分で選択できない状況を押し付けられているのを解消するため、という理解だったので、これは少し意外だった。
 この行動から考えると、サクラはもはや、状況判断を全て真昼に投げてしまっている、ということなのかもしれない。

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三枝零一作品の書評