兄弟の思惑

 正守が夢路との会合に臨んでいる間に、烏森が襲撃を受ける。周辺の街を人質に取ったやり方に、また、自らの迷いのために、ただ黙って見ているしかできない良守たち。しかし、その均衡を崩すように、氷浦が敵に攻撃を仕掛ける。二対一の戦いに勝機はあるのか?そして、夜行の準備するまじない破りは間に合うのか?

 良守の極限夢想の求めるところと、氷浦たち「人形」の作られ方はどこか似ている。共通するのは、能力を効率よく使うためには心は余分だという考え方だ。しかし一方で、両者の方法論はコントロールの仕方という点では全く違う。前者は力に対する介入を拒絶するための方法論であるのに対し、後者は他者が力に介入するための方法論なのだ。
 本巻では、正守と良守、日永と月久という二組の兄弟が登場する。正守が作った夜行も、日永と月久が四百年前に設立した裏会も、もともとは異能者の互助組織を設立したはずだ。しかし後者は長い年月の間に変質し、助け合うための手段としての力ではなく、力をふるうという事そのものが目的化してしまう。
 この原因がどこにあるかは未だ分からないが、自分たちでは対抗しえない強大な力が存在する、という事実を知ったことが、そこに関わっているのかもしれない。それに力で対抗しようというのが後者の方法論であり、それの影響を切り離そうとするのが前者の方法論なのかも知れない。

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田辺イエロウ作品の書評