残された世界の住人達

 東澱久既雄の寝所に侵入した少女、舟曳沙遊里は、ペイパーカットの秘密と引き換えに、舟曳尚悠紀の残した未完成映画の調査協力を願い出る。東澱三兄妹の次兄である早見任敦に預けられた沙遊里は、伊佐俊一と共に、撮影候補地だった場所を巡るのだが、それを妨害するようにサーカムの幹部が現れる。
 一本の未完成映画と、その映画に人生を左右された人々が織りなす物語。

 エンターテインメント作品が面白いか面白くないかは、作品のテーマが高尚か低俗かではなく、作り上げられた世界がどれだけ読み手の“リアリティ”を喚起できるかにかかっていると思う。本当にそれがあるかどうかではなく、もしかしたらあるかも、あったらいいな、と思わせることができたら勝ちなのだろう。
 この“リアリティ”が極めて高くなると、作品世界のキャラクターが現実にいるかのように錯覚させられたり、作品に影響を受けて現実に行動する人々も登場したりする。つまり、作者以外の作品の作り手が登場するのだ。
 元々の作者が作った世界と、新たな作り手たちが築き上げた世界。いったいどちらが本物なのだろう。きっと答えは、読み手によって異なってくるのである。

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上遠野浩平作品の書評