経験者には都合が良すぎると言われるかも知れないけれど、そこは物語なので

 高校野球に女子選手が参加できるようになった世界のお話。
 小学生の本田綾音は、川崎巧也と約束をする。高校生になったら同じ学校に行き、甲子園を目指すこと。そして綾音はイギリスへと旅立っていった。
 三年後、日本に帰国した綾音は、巧也との再会を楽しみにしていた。綾音がイギリスにいる間に巧也は、世界野球選手権16歳以下部門の優勝投手に成長していた。イギリスからこっそり進学先を調べ、同じ学校に入学した綾音だが、その学校の野球部は廃部寸前。そして、再会した巧也は野球をやめ、医学部を目指して勉強に没頭していた。
 かつての約束を果たすため、そして自分の三年間の努力を無にしないため、綾音は巧也をなんとか野球に戻そうとアタックを開始する。そして…。

 ページ数を見れば分かると思うが分厚いので、上巻と下巻が一冊にまとまっていると考えるのが適切かもしれない。なぜなら、前半と後半で大きく物語が転換するから。野球の試合の話が出てくるのは、後半になってからである。
 後半は普通にスポーツものなのだけれど、前半はそこに至るまでの青春ものという感じ。個人的な感想で言うと、前半は少しつらかったけれど、後半は純粋に楽しめた。

 また、作者自身の経験に基づくのかは知らないが、分かりやすくいやらしい性格のキャラクターが登場する。これを許容して読めるかどうかが、前半でひかないためのポイントになる気がする。
 その他には、才能と努力に関する言及が、ストーリー展開上の必然性はさほどないように思えるにも拘らず、各所にあらわれる。何かこだわりがあるのだろうか?

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柏葉空十郎作品の書評