華やかさを支える地味な仕事

 1930年頃、北の炭鉱山と麓を結ぶ路線があった。息吹山炭鉱線と呼ばれる急勾配のその路線には、途中、息吹山隧道(ずいどう)がある。息吹山保線区の保線手である所田三郎は、息吹山新線の工事監督という本来業務を差し置いて、隧道内の点検に来ていた。
 そこにやってくる、一本の臨時列車。その列車が通り過ぎた後には、一人の少女が倒れていた。その少女、東雲櫻子は、政略結婚が嫌で父親とけんかになり、その後、偶然の事故で列車から投げ出されてしまったのだった。
 旅客列車が来るまでの三日間、工事宿舎で暮らすことになった櫻子は、飯場を取り仕切るトメという女性の手伝いをすることになる。これまで自分が暮らしてきた世界との違いに戸惑いながらも、社会を構成する人にはそれぞれの役割があることに気づかされていく。

 愚直なまでに自分の仕事に取り組む三郎と、世間知らずであることを自覚していく櫻子、そして、怪しげな行動をとるトメという三人が出会い、櫻子が変わっていく過程で、三郎自身も過去の呪縛から解き放たれていく。
 一方で、櫻子の父親サイドでも、見合い相手の一族とのやり取りが描かれるのだが、こちらは冗長な部分と不足している部分があり、全体的に中途半端な気がしなくもない。わかりやすさという点で言えば、もっと徹底的にしても良かったと思う。

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峰月皓作品の書評