人の本質は声に現れてしまう

 トリックよりも、探偵と助手のやりとり、共感覚という特殊能力を軸に置いた構成などに主眼が置かれている感じがする。共感覚とは、五感のうち一つの刺激を受けることによって、他の感覚も刺激される特性のこと。この作品の探偵である音宮美夜は、音に色や形が見える共感覚の持ち主だ。
 この共感覚は、作中の説明によれば十万人に一人程度で現れる特性で、別に超能力というわけではない。探偵助手役を演じる高校生天祢山紫郎が指摘しているように、音が色や形で見えるだけなので、音響解析などの存在を考慮すれば、際立って飛びぬけているという能力ではない。しかも、人とは違うものが見えるせいで、その認識に引きずられてしまう気もする。
 だが考えてみると、科学捜査は誰かが異常性に気づかなければ実施されないのだから、何気なくいるだけで普通は気づかない関連性に気づいてしまえるというのは、やはり明らかに突出しているのだ。そして、もう一つの音宮美夜の特殊性により、本来の目的を達成する。

 読後に何を思うかは人によってかなり異なるだろう。犯罪捜査の在り方としていかがなものかと思うかもしれないし、前半に登場するセリフが強烈な皮肉として響いてくるかもしれない。そして、この結末から共感覚を見直した場合、全てを超越する神の能力の様にも思えてきてしまうのだ。

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天祢涼作品の書評