自分が作り上げたい未来のために

 ネメシスQの生みの親グリゴリ07号との接触が夜科アゲハに生み出したものは怒りだった。夜科は優しいが、その優しさは身内にしか向かない。ゆえに、グリゴリ07号の悲惨な生い立ちを知っても、彼の心に浮かぶのは、彼女の自分勝手な理由によって引き起こされた出来事により、身内を傷つけられた怒りしかないのだ。
 それなのに、その怒りが彼の行動を縛ることはなく、きわめて冷静に現実的な行動を選択できることも、彼の大きな特徴のひとつだろう。そしてそれは、身内に向けられる優しさにも例外なく適用される。あるいは、明確に優先順位付けがなされているのかも知れない。もっとも大切なものを守るためならば、その次の何かは捨ててしまっても良いというような…。

 一方で、これまでは冷静さと強さの象徴だった雨宮桜子は、脆さを露呈させ始める。もともと、相手から離れることで傷つく理由も作らない、というような方法で形作られた"強さ"だったので、それはいつ崩れてもおかしくはなかったと思う。だが、強さがなくても良いと彼女が思えるようになったのは、自分が誰かに守ってもらえる、ということを強く感じているからなのかもしれない。

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岩代俊明作品の書評