自分にしかできないではなく、誰にでもできるへ

 命の師匠である心臓外科医アルフレッドが来日する。ちょうどそのときに運び込まれた急患の少年は、U-15の日本代表サッカー選手だった。普通に治療すれば、プロ選手の夢を諦めざるを得なくなる。その時、アルフレッドは自分にしかできないという治療法を提案するのだが、その執刀ができないほど、老化により能力が低下していた。少年の夢も、生きがいをなくしかけた老医師も救う命の一手とは。

 飛行機内の出産に関するお話といい、いつも以上に生と死を前面に押し出した構成になっている気がする。
 命自身は超一流の外科医なのだが、彼はそこに留まらず、難しい手術を誰にでも行える手術に改良することを自らの使命としているようだ。普通に考えれば、自分自身の付加価値を相対的に下げる結果になるわけだし、自分のことだけを考えれば、あまり意欲の湧く作業ではないはず。しかし彼は、一人でも多くの患者を救うため、一人でも多くの優秀な医者が生まれることを優先する。どれだけ広い視点を持てば、こういう生き方を選択することができるのだろうか。

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橋口たかし作品の書評