自分の力で未来を切り開きたいのに

 王宮魔術士の中で唯一の平民出身者であるため、最優秀でありながらも完全に出世の道を閉ざされてしまっている17歳のアンジュが、彼女をとりたててくれた英雄レイヴェンの命を受け、彼の弟でやる気のかけらもないレックスと共に、魔王メイ=ヘムを退治する旅に出ることになる。
 名門の生まれながら貴族の義務も果たさない弟とセットで厄介払いされたと解釈したアンジュではあったが、レックスはやる気がないだけで、騎士としての実力は超一流だった。彼の家付きメイドであるトモエと共に、魔王の住む魔界へ渡るカギとなる、竜王シグルドと会うため、行方の手がかりを握るであろう、シグルドの子の一人である金竜オルリスの住む山へと向かうのだった。

 実力はありながら、家柄や金がないために魔術を極めることが困難なアンジュが、努力してがんばって成り上がる系のお話かと思ったのだけれど、結局は選ばれた力を持つレックスがちょっとやる気を出してがんばるみたいなお話だった。
 もちろん、彼がやる気を出すまでには色々とエピソードがあって、しかめっ面アンジュが可愛らしい感じになったりもするのだけれど、個人的にはやっぱり不満。だってこれって、普通の人がいくら頑張っても、生まれながらにして選ばれた存在でなければ、どうにもできないものはどうにもできない、ということじゃないのかな。
 このままの流れで最後までいくとすると、アンジュは結局、レックスのおこぼれにあずかることでしか、自分の存在を他人に認めさせることが出来ないということになってしまう。まあ彼女が、お姫さま志向の人ならばそれで良いのかもしれないけれどね。

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志村一矢作品の書評