いかにもファミ通文庫らしい

 文研部に所属する、八重樫太一、永瀬伊織、稲葉姫子、桐山唯、青木義文の5人は、ある日突然、「ふうせんかずら」を名乗る正体不明の存在から、しばらくの間、アトランダムに人格入れ替わりが起きるという事実を告げられる。
 目的は不明、入れ替わり終了条件も不明の中、当初は大混乱をしていた太一たちだが、徐々に落ち着いてきたかに見えたころ、本当の問題が明らかになり始める。

 性別が入れ替わったことによる肉体的な側面から生じるトラブルよりも、その器に入っていた精神のあり方と入れ替わりにより生じる互いの心理の変化にスポットを当てているのは、いかにもファミ通文庫らしい。
 基本は、八重樫太一が入れ替わり現象の(自覚のない)中心となって、女子メンバー一人ひとりの心の闇を明らかにしていく。

 ベースとなるそれぞれの身体的特徴や性格が読み手に定着しないうちに入れ替わりが発生してしまうので、しばらくの間は誰が誰だっけ?という感じで、口絵と見比べながら読んでいた。
 それぞれが抱く悩みはおそらく誰もが感じたことのあるような悩みだけれど、長じれば大概折り合いをつけて、いつの間にか気にならなくなっちゃう性質のものなんだと思う。あれ、何で悩んでいたんだっけ?という感じで。今回は、それがまだ気になるうちに、そこを利用して何者かが引き起こした事件なのだ。

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庵田定夏作品の書評