宇宙に選ばれた観測者の生きる世界

 ニュートン力学が有効になる領域では、初期の状態が分かっている限り、ある時刻における物体の状態を決定することが出来る。一方、量子力学では、物体の状態は波動関数で表されるのだが、これは、その物体に対する様々な状態が重ね合わさった解になっている。つまり、実際に観測するまでは、どういう状態になっているかを言い切ることが出来ない。
 しかし実際に観測してみれば、その物体の状態は一意に定まる。この重ね合わさった状態から、観測して一意に定まった状態までの間に何が起こっているのか?その疑問が量子力学観測問題と呼ばれる。

 観測問題に対する解釈は諸説あって、現在主流なのがコペンハーゲン解釈であり、観測した瞬間に重ね合わさった状態から一つの状態に収束するという考え方だ。可能性はいっぱいあるが実現するのは一つだけ、という考え方と言えよう。
 他に有名な解釈としては、重ね合わさった状態にはそれぞれ対応する観測者がおり、それぞれの状態が実現しているけれど、ある観測者が認識できるのは一つの状態だけなので一つに定まると考える、エヴェレット解釈がある。

 この解釈に則れば、ある観測者がずっと生き続けるような状態が続く世界も矛盾なく存在することになる。この作品で登場する南部観一郎は、そんな観測者の一人だ。
 彼は、塾講師をしながら自分と同じような立場の仲間を探し求め、相棒の延長体ペンダンと共に、今日も街をさまよい歩く。

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大西科学作品の書評