どんな世界でも変わらず

 ある時、世界は大崩壊と呼称される連続自然災害に襲われ、人類社会は崩壊の危機に瀕した。国家はほとんど機能しなくなり、地表にはどこからともなく魔獣と呼ぶべき生物が現れ、人間を襲った。
 しかし、自然界のバランスのなせる業か、もはや由来も途絶えて久しいが、いつの頃からか一部の人間が異能に目覚め、魔獣を退けつつ大規模な結界を張り、城壁を築いて都市を形成していった。大崩壊より五百年、今でも魔獣と人間の生存競争は続いている。

 一応とはいえ平和な場所が作られれば、それまでは外敵に対して一致団結していた人々もバラバラになり始める。特に、異能を持つものと持たざるものがいれば、その間隙に猜疑と恐怖という楔が打ち込まれることは明らかだ。
 紆余曲折の末、異能力者たちは結界都市を離れ、自らの拠点を築きながら、都市を守る戦力として一族の一部を供給しつつ、生活物資などを対価として受け取る関係に落ち着いた。

 そんな交流の一環として都市に来ることになった獅堂宗は、留学生として初めて城壁の中の社会を知る。そこには彼の知る魔獣との戦いはなく、主義主張の違いによる人間同士の静かな争いがあった。

 壁の外は異能力者バトルが繰り広げられている世界でありながら、描かれるのは文明社会の中の組織同士の対立や、思想の違いによるテロリズムの応酬がはびこる世界だったりする。まるで現代社会の病巣を描く、みたいに見えなくもない。
 獅堂宗の行動の原点は憧れにあるけれど、その先にあるのは甘い世界ではない。たとえ世界がどんな状況であっても、社会という集団が形成されれば起きることはいつも同じなのだとしたら哀しい限りだ。

 最後に微妙に伏線ぽいものがあったり、人間関係的にも色々と発展の余地がありそうではあるので、その辺りが明らかにされる機会があればそれも面白い。でも、曖昧なままでもそれはそれで綺麗な終わり方なのかも知れない。

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水鏡希人作品の書評