現実の厳しさを語る物語

 声優になるために専門学校に通い劇団に所属しようとする少女沙奈歌と、ハッカーを名乗り他人とのかかわりを持ちたがらない少年広野。普通なら交わらなそうな二人の人生が、同人誌即売会のあるブースで接触する。

 一見するときちんと夢に向かって生きている少女と何をすべきかはっきり分かっていない少年という構造に見えるが、そう単純な話ではない。
 沙奈歌は声優を目指して友人たちとがんばっている。しかし、みんな一緒に夢に向かって努力するというのは聞こえは良いが、それは一種のなれ合いだろう。トップを目指す者は、並ぶ者がいないという意味では孤独にならざるを得ない。
 一方で広野は技術者としての腕を持ち、それを利用して孤独に活動をしている。そして、自分は一流として立つためにそうあるべきだと考えている。そんな二人が出会うことによって、互いに変化が訪れるのだ。

 現実は厳しい。自分の思うようには上手くいかない。でも、自分の夢をかなえようと思えば、苦しくても、辛くても、プライドがズタズタになっても、前に進もうとしなければいけない。
 物語らしくない現実の厳しさを語っている物語。

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木本雅彦作品の書評