もう一人の女子選手

 前巻は、本田綾音が真っ向勝負で挑むというところにゲームの真骨頂があった。しかし今回は、名門校・一流選手に対して、公立校・普通の選手がどの様に対抗するかというところに焦点が当てられている。だから、チームとしては県大会でベスト4となって春の甲子園の21世紀枠を目指し、個人としては、石橋蘭が、川崎巧也が、他の選手たちが、いかに相手に全力を出させず、自分の力を出し切るかに挑む。
 綾音が代表試合に遠征中の間の野球部のバイト風景から始まり、兄との対決や横恋慕に悩む蘭の心理描写、微妙にすれ違いを生む綾音と巧也などの姿が描かれる。そして後半は、その微妙な関係を引きずったままで秋の大会に入ることになる。果たして彼らは甲子園への切符を手にすることができるのか。

 前巻と違って監督兼部長のうざい様があまりないのは正直言って助かる。また、21世紀枠を目指すという、スポーツものの常道から少し外れた部分にスポットを当てたところも面白いと思う。ただ、厚さから見ても分かるかも知れないが、解説が細かすぎる気がした。
 もちろん、野球のプレーについての解説が詳細であることは必要だ。そうしなければ、野球に詳しくないものは状況を理解できない。しかし、キャラクターたちの心理まで必要以上に書く必要はないと思う。あまり詳しく解説されると、読む側の解釈の余地が減るし、想定する以上の深みがなくなってしまう気がする。まるで、詳細な演技指示がされた台本のように。

 ストーリーは人間関係的に良いところで終わりになってしまったので、今後の展開が楽しみだ。

   bk1

   
   amazon

   

柏葉空十郎作品の書評