認識の相違をキーワードにしてSF展開に進む

 自分以外の生き物が全てロボットに見える、ロボットと人間の区別がつかないという少女、毬井紫と友人になった少女、波濤学は、ゆかりの友人でありながら彼女に憎悪を抱いている少女、天条七美と反発したり近づいたりしながら、普通の学校生活を送っていた。
 しかし、ゆかりと一人の殺人鬼との出会いが、普通とは少し変わっているけれど平凡な日常をどこかへ追いやり、まなぶにななみが抱いている憎悪の理由を悟らせることになる。まなぶの機能拡張がなされることを代償として。

 クオリアの相違という変わった設定はあるけれど、日常のドタバタをまったりと描いていくのかなと思わせる第一章から、第二章ではまなぶを主役として、思いっきりSF的な展開へと変わっていく。
 一言でいえば並行世界での試行錯誤なのだが、感覚的にいってこのジャンプの仕方が半端じゃない。そして、ジャンプして戻ってくることで、ゆかりという人物に対する深みと、まなぶという人間の徹底ぶりが理解できるようになっている。

 第一章の展開を引き継ぐべきなのはこの回帰した後の世界なのだが、そこは描かれることはない。まさに不確定だ。ただ、あらゆる可能性を検証した上でその経験を捨てたことで、まだ生まれていない可能性を選択できる可能性が生まれたことは確かだと思う。

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うえお久光作品の書評