押し寄せる難題

 ヤエトがようやく床払いをしてジェイサルドの監視から逃れられたとホッとしたのも束の間、皇妹から黒狼公としてのヤエトに復縁の提案がなされる。受けるも断るも彼の自由という皇妹の言葉に、余計に悩みが深くなる。
 その件も片付かないうちに、再び夏入りの祭の季節がやって来た。そして時を同じくして、北方からは和平の使節が訪れる。
 ヤエトが訪れる北方の地で出会う、絶大な恩寵の力を持つ少女。そんな神の力の世界とは別に、人の世では権力と金に基づく新たな策謀が繰り広げられようとしていた。

 隠居という単語が遠くなる一方のヤエトは、次から次へと難題を抱えてしまう状態に陥っている。
 魔界の蓋が開くという神の世界に関わる問題は、未来視の恩寵だけではなく、身近な鬼神の問題や、新たな恩寵の力が彼の前に現れ、より広がりを見せる一方で、人間の世界の中でも買収・切り崩しなどの権力闘争が裏面で本格化してくる。ある場所では世界が滅びるという話をしているにも拘らず、ある場所では今のままの世界が続く前提で権力の配分に汲々としているギャップが面白い。

 本書の最後に、ヤエトは選択を迫られる。他人の今すぐの危機を救うか、将来の自分の安全を取るか。そんなドキドキを抱えたまま何ヶ月も待ちたくない場合は、下巻が刊行されてから読んでも良いかも知れない。

 それにしても、シロバの雛はもふもふしてて気持ち良さそう。

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妹尾ゆふ子作品の書評