復讐心とそれを癒す心

 父親である鬼の頭領を桃生という人間と犬猿雉に殺され、自身も捕えられた温羅は、人間を激しく憎んでいる。しかし、牢で生活するうち、自分の食べる分を減らし、邑のものから虐められても、温羅に食事を差し入れてくれた巫女の少女、梓には恩を感じていた。そんなある日、彼が捕えられている邑を、中津国に反逆した桃生の配下である犬が襲う。
 何とか撃退したものの、中津国の神宝のうち二つを桃生に奪われ、それを取り返す旅をすることになった温羅と梓、そして役人の川楊智也。旅をするうちに、温羅の中で忘れられていた過去の記憶がよみがえってくるのだった。

 時代的には垂仁天皇の頃。日本書紀の記録や吉備津彦命による鬼退治の伝承をベースに、父を殺され復讐を志す鬼と、その心を癒す少女の交流を描いている。
 さまざまな伝承の要素を入れようとして、いささか消化不良気味になっている設定がある気もするが、二人の交流が微笑ましいので問題ない。でも、型にハマったものなので、続編は書きにくいかも。

 作者としては、本来はこういう、まつろわぬものの物語が好きなのかな?

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川口士作品の書評