一人のための物語でありながら、全ての読者ために書かれた物語でもある

 同名アンソロジーの雑誌&文庫に収録されていた著者の同名作品を抜粋してSide.Aとし、同じテーマの書き下ろしをSide.Bとして収録した作品。

 Side.Aは、ひっそりと物語を書き溜めながらも翼を折られていたために飛べなかった女性が、一人の男性と出会い再び翼を得て作家となっていく様子を描く。ここだけ見るとプラス面だけのようだが、冒頭に彼女が不治の病に冒されること、彼女の作家生活を妨害する親類・知人の存在という、強烈なマイナス面も併せて描かれていて、かなりクる。初読の時はしばらく呆然としていた。
 Side.Bは、Side.Aと設定をひっくり返して、読者側が辛い目に会う。

 Side.AもSide.Bも、固有名詞ではなく一般名詞や人称代名詞で登場人物を示していることが、逆に物語に真実味を出させている様な気がして不思議。そして、いずれも虚実入り混じるような感覚を得ることは共通している。

 一人のための物語でありながら、全ての読者ために書かれた物語でもあるという二義性を内包していると思う。

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有川浩作品の書評