したたかに生き抜く女性の物語

 同僚の女房に連れられて縁結びの参詣房を訪れた小宰相の君は、猿楽太夫と出会う。日を空けず彼女の仕える宮家へと通う猿楽太夫に対して、それを受け入れ求めつつも、どこか冷ややかにそれを見つめる自分の姿があった。自らの行く末に不安を抱く同僚たちの多い中で、それすらも突き放して考える彼女。
 そんな彼女の異母妹であり、市井にて暮らす於次は、面打ちだった父にいないものとして扱われながら、一人、面打ちとしての修行を積み重ねていた。そんなある日、彼女が作業する地蔵堂に、怪我をした男、秋春が入り込む。彼は貴族の家で雑用をして働きながら、自らが何をすべきかも分からず、盗賊の助っ人としても働いていた。
 身内には愛されないながらも、周囲の他人からは愛される於次のつながりは、巡り巡って彼女と猿楽太夫との間を結び付けていく。そうしてついに出会ったときに生じる、彼女と周囲の人々の変化がもたらすものとは何か。

 一応の平安を得ながらも、どこか不穏な気配を漂わせる時代にあって、暴力が幅を利かせながらも、猿楽という文化が花開き始めたころ。猿楽太夫という稀代の舞手の周りを彩る女性たちの姿が描かれる。
 そういった女性たちの間を渡り歩きながらも、猿楽の大成を一番に考え、自らの技を磨き上げることに弛みがない太夫。その勢いは、新たな才能を呼び起こし、時代を盛り上げていく。

 前作、前々作は、犬王と猿楽太夫という舞手のサイドから描かれた物語であったが、今回は彼らを取り巻く人々の物語。それでもどちらかというと、猿楽太夫に近い。
 たとえ煌びやかな才能はなくとも、仮に迷いや不安があっても、自ら選び取る時には選び、彼らは彼らの人生を生きていく。そんなしたたかさがある、三部作の最後を飾る作品だと思う。

   bk1

   
   amazon

   

永田ガラ作品の書評