過去の上に築かれる現在、いまここにある自分

 人格入れ替り、感情暴走と来て、今度は時間退行現象がメンバーを襲う。外見と共に精神も幼い自分になったり元に戻ったりする4人に対し、何故か変わらないままの太一。
 冬休み中であることを利用して、何とか周囲にばれない様に廃ビルで退行現象をやり過ごすのだが、長引くに従って家族や友人たちの不審を招いていく。そして、鮮明になる過去の自分の記憶は、現在の自分の行動にも影響を与えはじめる。

 過去の自分に戻るという、物理的にも外見的にも非常に大きな現象なのだけれど、やはりポイントになるのは自分の心。特に、時間の流れによって忘却したその時の気持ちが鮮明になることが大きい。どうにかやり過ごしたはずの失敗が、恐怖が、またあらためて突きつけられる。
 また、今回は文研部のメンバー以外にも、彼らに重大な影響を与える登場人物がいることが特徴的だと思う。例えば桐山唯の空手時代のライバルだった三橋千夏や、青木義文の元カノ西野菜々、永瀬伊織の母や、太一の妹などだ。そして彼らは今回の現象にもそれなりに関わって来る。

 今ここにある自分の判断は本当に自分のものなのか。あるいは過去の自分や他の誰かからの影響下にあるのか。それも含めて自分と呼ぶべきなのか。過去と向き合うことで、彼らの頭の中をそんな考えがグルグルと回る。
 現象が収まったところで彼らの関係は元のままなのか。あるいは…。まだ彼らの物語は続きます。

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庵田定夏作品の書評