自分にとっての真実の世界

 27年前から一般に認知されるようになった、世界に対する認識が他者とは異なる少年少女の存在。例えばそれは聴覚で世界を視る人々であったり、数字で世界を理解する人々であったりする。彼らは自身を規定する言葉を持ち、それを他者に伝え受け入れさせることで、同じ認識で世界を見る仲間を増やしていく。そんな遺伝子の様な性質を持つ言葉は遺言詞(ランジーン)と名付けられ、その様な人々はコトモノと呼ばれて人間と区別されるようになった。
 ロゴこと武藤吾朗は、そんなコトモノの一人で、仲間内だけでしか理解できないはずの他者の遺言詞を理解し記録する能力を持っている。そんな彼は、コトモノたちのグループ、詞族に対する連続襲撃事件に遭遇し、一人の少女名瀬由沙美と出会い、事件の容疑者である真木成美と再会する。成美は6年前にコトモノを失った、吾郎の友人だった。

 コトモノを襲い、その能力を喰らい続けるバケモノと化したかに見える成美が執拗に狙う由沙美が宿すコトモノは、かつて成美がコトモノを失った理由と関係していた。そして、その状況を作り上げた組織の存在と、彼らの目指す歪んだ世界が明らかになる。
 ロゴが過去の真実と自分の罪を知った上で、選び取る未来はどの様なものなのか。

 極めて狭い範囲の価値観を共有しあえる人々で形成されたコロニーと、その様な異物を飲み込んで利用しようとする社会という、若干風刺的な広めの視点から始まって、主人公個人の認識と選択という狭いところに落ち着いた感じがする。そのスコープ切替タイミングがよく分からなかったので、最後の解決が最初の社会的状況にどんな影響を及ぼしたのか、関係が見え難い気がした。その辺の広がりは今後の展開となるのかも知れない。
 コトモノを宿しているからというせいもあるのだが、場面転換ごとにロゴや成美の性格が一変しているような気がして、何か落ち着かない気分がした。今回ある程度は彼らの立ち位置は固まったと思うので、今後はそういう揺らぎはあまり無くなるとは思う。あと何名かはほとんどストーリーに絡めなかったので、彼らの活躍は今後に期待したいと思う。


 内容には全く関係ないのだが、同時発売タイトル5本が、そのページ数の多寡に関わらず、全て同じ定価であるという試みは評価したい。他のレーベルと比べると、ページあたりの単価は相当下げられていると思う。

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大泉貴の書評