律義で真面目な主人公のラブコメ

 高校入学して間もない上月慧は、全校に知らないもののない有名人になってしまう。それも、自分の能力ではなく、彼に親しくする女子生徒2人の知名度によって。1人は生徒の6割が加盟するともいうファンクラブを持つ生徒会役員の響徳寺綾乃。もう1人はモデルもやっている一年生の有坂美袖。度々繰り広げられる親密イベントには、やっかみも込めて尾ひれが付き、慧はハーレム王と呼ばれるようになってしまう。
 しかしそれらは全て誤解。実際には彼女たちとの関係は噂にある様なものではなく、極めて平凡な、だが親しくて当然の関係性によるものだった。ただし、それは大人の事情による複雑さも含んでいて、しかも3人の関係を正しく把握しているのは慧だけということが問題をより分かりにくくしていた。
 そんなわけで誰に言い訳が出来るわけでもなく、ハーレム王という虚名に嫌々ながら甘んじているしかなかったのだが、それには弊害がひとつ。どうしても話しかけたいクラスメイトの初穂詩織に避けられてしまうこと。彼には伝えたい想いがあったのだ。

 3人の関係が分かった時の印象は、上月傑という慧の父親はどういう人間だったんだろうということや、選択的夫婦別姓の時代が来たらこういうのも意外に普通に見られるのかなということだった。そしてその弊害を受けているにも拘らず、慧がひたすら秘密を守ることに律義さを超えていらだちすら感じた。
 基本的にはラブコメのはずなんだけれど、非常にゆったりとしたテンポ感で書かれている印象があって、内容との間に微妙なずれを感じてしまう。最後の方はこのずれは少なくなってきたように思うので、続編があればその辺はもっと上手く回される気はするんだけど。律義さや真面目さだけではラブコメの主人公はやっちゃいけないんだなということは何となく感じた。

   bk1

   
   amazon

   

水鏡希人作品の書評